19Jan
近年、社会のニーズに伴い、審美的矯正診断が重要視されてきました。
以前の歯列形態だけに限局した診断から3段階の診断、すなわち顔面診断、歯列の診断、個々の歯の診断です。
これをMacroesthetics, Miniesthetics, Microestheticsとよび、系統的な分析をしていきます。
Macroesthetics(顔面診断)では、Profile, Vertical proportions, Lip fullness, Chin-nasal ProjectionそしてFacial widthsをそれぞれチェックします。
Miniestheticsでは、歯列、前歯の露出度、スマイル時の幅、対称的なスマイル、叢生の有無、スマイルラインを評価します。
また、Microestheticsでは、歯肉形態、突出度、歯の形態、隣接面、接触状態と鼓形空隙を観察します。
現在では、従来の治療計画よりも
1.患者に特化した,
2.硬組織の計測よりも軟組織に的を絞って,
3. 距離や角度的計測よりも比率を評価します。
また、計測は、垂直的、前後的、左右的な3次元的評価に加えて、咬合平面の傾きと咬合面の上下的位置、さらに、これらに加えて年齢による変化を加味します。
顔面の正面的評価では、安静位の正面から左右の対称性と垂直的バランスの評価をします。
正中線は、Soft tissue Nasion, Nasal base(鼻下点)およびSoft tissue Menton-midsymphysis(オトガイ正中)を基準点とします。
Soft tissue NasionとNasal baseまでの距離(中顔面)とNasal baseからMenton-midsymphysisまでの距離(下顔面)が等しく1:1がよいとされます。
さらに下顔面を上下唇の接点で分割し、鼻から口唇までと口唇からオトガイまでの距離を1:2が理想的とします。
斜め前方45°の顔面写真からは、やはり安静位で顔面のプロポーションを再評価し、鼻の形態、オトガイから首周辺を観察します。
次に側面は、やはり安静位で顔面のプロポーションの再評価を行い、鼻の形態と唇のバランス、オトガイから首周辺を観察します。
顔面側面の計測点のうち、鼻唇角は92°±9°が日本人の標準値です。
それは鼻の上下的向きによって変化するので、McNamaraはFH平面を基準とした上唇の傾斜度をCant of upper lip(上唇の傾斜度)としてあらわしました。
この日本人の基準値は、男子で17°±5.4°、女子で18°±9°です。
次にRickettsのE-lineは、鼻とオトガイを結ぶ線を基準として上下唇がこの線に接するのが美しいとされています。
オトガイの前後的位置は、Subnasale perpendicular(鼻下点垂線:FH平面に対して鼻下点を通る垂線を引く)を基準としてオトガイが6mm後退しているのが日本成人では調和がとれています。
また、この線から上唇、下唇はそれぞれ4~5mm, 1~2mm前方へ出ているのが良いとされています。
これを達成するために、下顎の後退した症例では、理想的には下顎骨前進手術やオトガイ形成手術が行われます。
それでは、下顎後退症例は、手術だけが適応でしょうか。
成長期であれば、もちろん機能的矯正装置により下顎の前進が少しはできるとされています。
Panchersは、ハーブストの装置(固定式下顎前進装置)であれば思春期成長が終了しても、さらに30歳以上の成人であっても下顎の前進効果が期待できるといっています。
この点に関して、West Verginiaのナン教授は、遺伝的制御があるので効果はないと機能的矯正装置の使用に対して反対の立場をとっています。
私の個人的治療経験では、機能的装置の種類が問題であると感じています。
歴史上の古い装置よりも新たに開発されたもののほうが効果はあり、また、可撤式よりも固定式のほうが勝っていると思われます。
年齢的には、やはり思春期成長時期を狙うことだと思われます。
BJAやダイナミックアプライアンス(DA)は、可撤式ですが、FKOやバイオネーターに比べて患者が圧倒的に使いやすく、開口時でも下顎が常に前進位を維持できるので効果的です。
ビムラーやフレンケルは、以前、多くの症例に使用し、それなりの成果は感じていますが、こと下顎の前進ということに関してはBJAやDAには全く及ばないと思われます。
何より治療効果の予測が立ちにくいという最大の欠点がありますので、大切な患者さんの一回しかない成長を利用した治療には、医療者としての責任の持てる装置を選択することが必要だと感じます。
また、最近ではT4Kなどの既製品の機能的装置が普及しだしていますが、これらは、よく考えられていますが、所詮、既製品で、診断と適応症による装置の選択がより重要です。
次に、年齢的配慮ですが、Dr. Sarverは、小児の治療の場合には、顎顔面の3次元的成長が25歳までどの方向にどのくらい変化するかということを把握した上で、診断と治療にあたる必要があるといっています。
思春期における下顎の前方成長だけではなく、垂直的な成長変化も興味深いものがあり、例えば10歳時にガミースマイルであっても25歳になった時には、軟組織の下垂現象によりちょうどよくなっていたという症例を供覧し、その年齢に即した治療目標を立てるよう講義しています。
また、下顎前突では、上顎骨の成長が10歳くらいまでであるのに対し、下顎の成長は10歳以降に旺盛となるので、早い時期に上顎の成長促進を行わねばなりません。
『口腔周囲軟組織の成長変化』
顎顔面の前後的変化として、思春期成長でオトガイが前進することは、言うまでもありませんが、鼻の成長、口唇の厚みの変化もあります。
オトガイは、Subnasale perpendicular、 McNamara lineを基準として思春期前後で約3mm前進します。
理想値としては、思春期前では、この鼻下点垂線から9mm後方であったものが、思春期後には6mm後方まで前進するとされています。
これは自然成長なので、ここで機能的顎矯正装置を用いて下顎頭を関節窩から離しておけば関節空隙を一定に保とうとする生体の働きにより、下顎サイズの増大がおこるわけです。
ついでですが、顎関節のリモデリングは、下顎頭だけではなく、関節窩のほうも上関節腔の厚みを一定にするために表層軟骨の成長に続く骨添加が起こります。
ですから厳密にいうと顎関節の位置そのものが前下方へ移動することになります。
次に鼻の成長です。Chaconas(1969 Oct, AJO)による46名の白人10歳から16歳までの変化の研究によれば、
1. 全成長は、男子のほうが女子よりも大きい、
2. 鼻中隔軟骨の成長が鼻骨先端を前方移動させる、
3. Ⅱ級症例は、鼻の隆起が大きい、
4. Ⅱ級症例は、鼻背湾曲が大きい、というものです。
一方、口唇の厚みに関しては、Burlington Growth Centreの8歳から18歳までの白人資料を用いたMammandras(1988, AJO-DO)の研究によれば、上唇の厚みは8歳時に男女とも約11mmであったものが12歳では12.5mmとなり、この後、女子はほぼ変化がないのに対して、男子は16歳まで厚みが16mmまで増すというものです。
下唇では、8歳時に約8mmであったものが、16歳時に男子で12mm、女子で11mmまで厚くなります。
これらのオトガイ、鼻、口唇の経年的自然発育によりE-Lineの評価が変わるので、その年齢に合わせたE-Lineの評価が必要となります。
『審美的診断』
近年、審美的要求が増加している中、矯正歯科の診断と治療方針も従来の歯列に限局したものから顔全体の審美的調和を考えるようになりました。
そこで顎顔面歯列を3段階に分けて美の評価をしていきます。
Dr. SarverはこれをMacroesthetics(顔面), Miniesthetics(歯列), Microesthetics(個々の歯)と呼び3段階の系統的診断を行うとしています。
顔面診断では、プロフィール、垂直的比率、口唇の突出感、鼻とオトガイの突出感、顔の幅を診ます。
歯列は、歯列・前歯の突出度、スマイル時の幅、対称的なスマイル、叢生の有無、スマイルラインです。
個々の歯では、歯肉の形態、突出度、歯の形態、隣接面、接触状態、鼓形空隙を評価します。
現在の治療計画は、
1. 一人ひとりの患者に合わせた
2. 硬組織よりも軟組織がカギとなり、
3. 従来の距離と角度の計測よりも比率を評価します。
正面顔貌は、安静位で左右対称性と垂直的比率を評価します。
そのための正中線は、Nasion, Nasal tip, Philtrum(人中), Midsymphysisの各点で診ます。
顔の幅は、左右内眼角、左右外眼角、頬骨間幅、鼻翼の幅のプロポーションと対称性を観察します。
垂直的評価はSoft tissue Nasion, Nasal base, Soft tissue Menton-midsymphysisの3点をとり、Soft tissue NasionからNasal baseまでの距離を中顔面、Nasal baseからSoft tissue Menton-midsymphysisまでの距離を下顔面とします。
この中顔面と下顔面の比率が1:1を理想とし、治療目標となります。
さらに、下顔面のうち上下唇の正中接触点で2分割し、上下を1:2が理想であり治療目標とします。
この上下唇の接触点からオトガイ正中までをChin heightといいます。
正面45°からの顔面写真では、やはり安静位で顔面のプロポーションを再評価し、鼻の形態とオトガイ首周辺を観察します。
側面では、やはり安静位で顔面のプロポーションを再評価し、鼻の形態、口唇のバランスとオトガイ首周辺を観察します。
下顎後退症例では、下顎骨前進手術と頤形成術が行われます。
手術ほどの変化は期待できないとしても成長期であれば、機能的顎矯正装置を用いて下顎を前方発育させることができます。
ここで問題になるのは、どんな装置を使用するかということです。
歴史的装置として矯正の教科書には載っていますが、まさか21世紀に入ってFKOを実際の臨床で使用している矯正専門医はいないでしょうが、バイオネーターでさえ過去の装置です。
患者にとって、たった一度の思春期成長を利用した治療を行うにあたり、我々は効果が最も期待できる装置を選択する責務があります。
過去には、フレンケルやビムラーも紹介されましたが、下顎前進効果としては、BJAやダイナミックアプライアンス(DA)が効果的です。
最近では、T4Kなどの既製品も開発され、舌機能や歯の早期接触による顎偏位の改善に効果的と大きく宣伝され、普及しだしているようですが、所詮、既製品です。
これらの使用は悪くはないでしょうが、診断と適応症を十分に検討した上で、これ以上に良い装置がない場合に限り使用すべきです。
『Miniesthetics(歯列の審美)』
3段階の審美的診断の2つ目はMiniesthetics(歯列の審美)です。
ここでは、切歯の露出度、スマイル時の幅、スマイルの対称性、叢生の有無、スマイル時の歯列カーブ状態、歯列正面から正中線の対称性、歯列と口唇の関係、45°から咬合平面傾斜度、側面から切歯の傾斜度を観察します。
さらに安静位における鼻下点と人中の距離、鼻下点と口角までの距離、切歯の露出度、上下唇間距離、リラックスして軽く唇を離開させたときの上顎前歯露出度、スマイル時の上顎歯肉露出度と切歯の長さおよび歯列のカーブと下唇との関係、口角の影をチェックしてゆきます。
また、咬合平面の傾きは重要なチェックポイントです。
傾斜があれば、歯肉の露出度を右側犬歯と左側犬歯部で測定します。
これらの現時点での評価に加えて、経年的変化を考えます。上顎切歯の露出度が減少するのはなぜでしょうか。
原因として、
1、歯冠長の減少、
2、歯列の上方移動(圧下)、
3、軟組織の下垂現象が考えられます。
成人の基準を小児に当てはめていいでしょうか。
上顎歯肉の露出度は経年的に減少するので、10歳時であれば、いわゆるガミースマイルの状態であっても25歳時には適正な若々しい状態になると考えられます。
若者のスマイルの特徴は、
1、我々が歯学部で学んだより実際は歯列露出度は大きい、
2、我々がこれまで思っていたより多く歯肉が露出している、
3、口唇が閉鎖しなくとも問題ない、
4、口唇の若さの特徴は、赤唇が大きく豊隆があること。
年齢による歯列の露出変化は、下図のように上顎中切歯は30歳では3mm 以上見えていたものが、40歳では1mm程度と減少する一方、下顎中切歯は逆に年齢とともに多く露出するようになります。したがって、若々しいスマイルは、上顎歯肉が見えるくらいがいいといえます。
次に、Buccal corridors(口角の影)です。これはないほうがいいわけで、そのためには、
1、正中口蓋縫合の拡大、
2、外科的拡大、
3、歯の頬側傾斜を行います。
また、スマイル時の歯列カーブ状態は、上顎咬合面が下唇に平行になるといいわけで、
1、成長期の患者の場合は、歯列の臼歯と前歯の萌出調整を行う、
2、ブラケットをスマイル時の下唇にマッチするようにつける、
3、上顎のアーチワイヤーにカーブをつける。
4、成人では外科的に咬合平面を変える、
5、前歯にベニヤを貼る、といった処置があります。
また、咬合平面が指しゃぶりなどの習癖が原因である場合は、もちろん習癖の除去です。
『Microesthetic evaluation(個々の歯の評価)』
Microesthetic evaluation(個々の歯の評価)では以下の項目を観察します。
1、Gingival shape & contour、
2、Emergence profiles、
3、Tooth shade、
4、Tooth shape, Contacts, connectors and embrasures。
(Sarver DM. Principles of cosmetic dentistry in orthodontics: Part 1. Shape and proportionality of anterior teeth. AJO-DO. 127:85-90, January 2005) 。
この中でSarverは、矯正の症例の出来栄えを良くするために矯正医として使うことができる審美歯科の原則があると述べています。
1、Golden proportion(黄金分割比)は、上顎中切歯の臨床歯冠の縦横比を1:1.615とすることです。
それも含めて切縁形態を修正すること。
2、Zeniths(歯頚部の高さ)を、左右対称で犬歯、側切歯、中切歯が高い、低い、高いとなること。
3、切端側のEmbrasure form(歯間鼓形空隙の形態)は、正中から離れるほど広くなる、
4、Contacts and Connectors(接触点と接触面積)は、中切歯の長径が調和のカギとなり、左右中切歯の接触面積は50%、中切歯と側切歯間は40%、側切歯と犬歯間は30%となることです。
これらを達成するために、歯軸傾斜に変化を与えたり、歯冠形態修正をしたり、ベニヤなどの補綴的修正を加えます。
以下の症例は、補綴前矯正として下顎4前歯の圧下を行い、歯冠修復を行ったものです。
(写真が入ります)
また、現在の矯正治療では、以前は行わなかった歯肉切除により歯冠長を変えたり、左右前歯の調和を図ったりします。
『犬歯の側切歯化』
Microestheticsの例として、犬歯の側切歯化があります。
これは上顎側切歯の先天的欠如あるいは抜歯の際に犬歯を側切歯の位置へ配列する場合の処置に関するものです。
この利点としては、
1、補綴が不要、
2、カリエスや知覚過敏が生じない、
3、審美と機能が達成される。
欠点としては、
1、大きな犬歯を形態修正せねばならない、
2、歯肉の高さが理想的にはそろわない、
3、ホワイトニングかベニヤが必要、
4、グループファンクションで仕上げる。
犬歯の側切歯化の準備:
1、挺出/圧下のメカニックスの習得、
2、歯の調和に対する洞察力、
3、歯肉の審美性の知識と認識、
4、正確な切削技術が必要です。
Zachrisson(Remodeling of teeth by griding, AJO-DO, 1975;68:545-553)によれば、犬歯を側切歯の形態に修正した場合、色調、動揺度、打診、温冷熱反応、歯髄診断の結果、35/37歯で問題がなかったと述べています。
そのほかの結論として、
1、隣接面の削合は、接触点と面積の問題、ブラックトタイアングルを改善できる、
2、切端の形態修正ができる、
3、がセラミックブラケットによる咬合面の摩耗をスムーズにできる、
4、咬合調整ができる、があげられます。
Dr. SarverのMacroesthetics(顔面), Miniesthetics(歯列), Microesthetics(個々の歯)という3段階の系統的診断法を解説してきました。日本においても機能的治療は当然ですが、その上に審美的にも考慮した治療が要求される時代が到来してきています。
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